テクノロジーが変える社会と企業の変革

このコラムは、最新のテクノロジーがもたらす社会の変化、そしてその変化を見越して今、企業経営に必要な変革の方向性と具体的な打ち手について解説するものである。

新しいテクノロジーが社会と企業を変革する

10年前に描かれた未来、そこから得られること

10年前に上映された映画「her」をご存じだろうか。近未来を舞台にしながら、監督・脚本のスパイク・ジョーンズや俳優フォアキン・フェニックスが織りなす心理描写は、現代劇のように繊細で、多くの人の共感を呼んだのではないだろうか。恋人サマンサがパーソナルコンピュータのOSという違和感によりエンターテイメント性を高めているが、一般的なSF映画のそれとは違う感覚を視聴者に与えていた。

この時代、世の中はディープラーニングに注目しはじめていた。Googleがその権威であるジェフリー・ヒントン教授を雇うためだけにトロントに事務所を設立するなど、第3次人工知能ブームなどとも言われ、そこに登場するような新しいテクノロジーへの期待が一気に高まった時期であった。筆者自身もAIを含む先進テクノロジーが企業・事業にどのようなインパクトを与えるか分析するコンサルティングや、テクノロジーを活用した新規事業・サービス開発の支援を実施していたため、新しいビジネスでの活用事例やユースケースを把握できる立場にいた。
前述の映画が描いたのが、当時から何年先の未来であったかは把握していないが、その時期に確立されつつあったテクノロジー各理論の集合が実現する社会を的確に捉え、浸透している様を丁寧に描いていたことが、現代劇のように感情移入できるSF映画という感覚を与えたのであろう。

1. テクノロジーの社会インフラへの実装状況から現在地を考える

現在、生成AIを活用したサービスがカンブリア爆発のごとく生み出され、社会や企業に実装されようとしている。これまでも多くの新しいテクノロジーが、期待の膨張と幻滅を経て、あるタイミングでインフラとして世の中に広く受け入れられてきた。この10年でAIと総称される技術そのものは、そのサイクルがある中で技術的には線形に発展しているとも言える。インターネットが世界中に張り巡らされ、スマートデバイス・SNS・クラウドサービス・高速な通信技術が社会のインフラとなり環境が整った時に、AIに一定以上のパラメータと自然言語というUIを与えた途端、人々はそれを、大きな驚きをもって迎え入れる事となった。
シンギュラリティが実現した後の世界を想像することは今でも難しいが、その情景を多くの人が想像できる状態にはなったのではないか。このテクノロジーを活用したサービスも、短期的な熱狂やその後の淘汰を経て、また新しい社会のインフラになり、次なるテクノロジーの土台として導入されていくのであろう。

2. 10年先を見据えて企業が取組むべきこととは?

今後10年先の事業を考える企業は、このようなテクノロジーが社会のインフラとして定着した先に、自社の事業がどのような価値を社会に提供し続けることができるかを考える必要がある。私が相談を頂くプロジェクトも、テクノロジー活用を中核に据えた個別の新規事業・サービス開発から、例えば先進的テクノロジーサービスを提供する企業のマネジメント・システムを自社運営に取り込む方策検討のような、全社変革がテーマになるものが多くを占めるようになっている。そのプロジェクトの冒頭フェーズでは、自社が社会にとってEssentialであり続けるものは何かを再定義することが求められる。
歴史ある既存企業がイノベーションを起こすための処方箋として「両利きの経営」(チャールズ・A・オライリー, マイケル・L・タッシュマン著、東洋経済新報社)は良著であるが、”知の深化”と”知の探索”は分けて実行することは難しくなっていくと考えられる。筆者は、既存事業の洗練を担う知の深化と全く新しいビジネスモデルを探求する知の探索は、企業において同一組織で実行するには多くの矛盾をはらむため、多くの場合は組織を分けることで初めて実現できると解釈していた。しかし知の深化を推進する多くの業務が新しいテクノロジーによって代替可能となる一方、知の探索はより多くを短期間で実行することが求められる。全社全組織が全方位で知の探索を実行することで、初めて競争優位が果たされると今は考えている。

3. 今、実行すべき具体的な打ち手を挙げる

より具体的に企業の従業員や経営者が実施すべき事を挙げる。この環境下では、あらゆるホワイトカラーは自身のスキルセットを見直し、新しいテクノロジーの進化を自発的に業務に取り入れることが必然になる。上司からの指示を正確に実行することを業務としてとらえている人にとっては、以下のように業務のとらえ方を転換すべきだろう。

  • データ分析やプログラミングの新たな知識・スキルを会得し、その能力を発揮できる場に自らの身を置く。新しいテクノロジーに関する情報は平等に同時に与えられている。
  • データドリブンで意思決定する能力を自社に提供する。勘・経験・度胸は未だ重要ではあるが、正解とは限らない。データからこれまで見えてこなかった事実を提示し、自社の改革を能動的に推進する。
  • 新しいユースケースを探索する。これまでのあらゆる業務が変革を迫られていることを前提に、テクノロジーを活用したユースケースを特定する。

またあらゆる経営者もマネジメント・システムを見直す必要がある。投資とオペレーション、組織構造見直しとリソース再分配、従業員のスキルセット、他社との協業、新しいリスクへの対応、多岐に渡る変革の打ち手を実行する必要がある。これまでの、予算と計画の一致を命題にしたオペレーションを過去のものとし、変革の度合いを計測していくことになる。

  • 社会が変わる中で自社独自の提供価値を再定義し株主、顧客、社内に明確な発信を行う。
  • それを実現するための組織構造に見直し、リソースの再配分と他社との協業を推進する。企業トップが自らテクノロジーを理解する、もしくはデジタル推進組織責任者と高頻度で協議の場を設けることが肝要となる。
  • 新しいテクノロジーがもたらす可能性がある負の側面・リスクを特定し、その対処方針を定める。新しいテクノロジーを利用するためには新しいガバナンス・ルールを定義することも、企業のサステナブナな運営において重要になる。
新しいテクノロジーが社会と企業を変革する(10年前に描かれた未来、そこから得られること)

ドルビックスコンサルティングが提供したいもの

「テクノロジーは所詮ツールである」という言説は、もはや通用しなくなっている。テクノロジーが変える社会の変化を正確に捉え、自社のEssentialを再定義し、新しいユースケースを他社とどのように共創していくか、それが企業の経営課題の中核となっている。

ドルビックスコンサルティングはDXを推進するコンサルティングファームとして創業され、その社名はデジタルトランスフォーメーションとラテン語のオルビス(羅針盤)という言葉から発想を得た造語で作られている。弊社はDXネイティブなコンサルティングファームとして、前述の具体的な打ち手に対応するサービスメニューを用意している。より具体的な情報提供の機会を頂ければ幸いに思う。

【注】本稿の内容は執筆者個人の意見に基づくものであり、当社の見解を示すものではありません。

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著者

執行役員
ビジネス&テクノロジー戦略
コンサルティング本部長

小山 俊介​

外資コンサルティング企業を経て、IBMにてCIOアドバイザリーサービスやテクノロジー戦略コンサルティング部門の日本責任者などを歴任、日系大手IT企業にて戦略コンサルティング部門の立上げなどを経験し2021年より現職。
CDOやCIOに対するデジタル戦略・IT戦略立案と変革実現支援を専門領域とし多数の実績を有する。近年は流通業、製造・通信・ハイテク企業向けを中心に、先進テクノロジーを活用した新事業開発や業務プロセス改革の戦略・企画立案からプロセス設計・組織改革を主たる活動領域としている。