サステナビリティ経営とは?
必要性や取り組み手順・企業事例を解説

サステナビリティ経営は、持続可能な社会を実現するための企業戦略として注目されています。環境保護や社会貢献といった価値を経営に取り入れ、長期的な成功を目指すアプローチは、ビジネスの世界でますます重要性を増しているためです。 本記事では、サステナビリティ経営の概念、その必要性について紹介します。

サステナビリティ経営とは

サステナビリティ経営とは、気候変動や人権問題など、多様なサステナビリティ(持続可能性)課題が顕在化する中、企業がサステナビリティを経営の中核に置き、経営の強靱性や持続可能性を高めることを指します。

サステナビリティ経営の実現は重要な経営計画のひとつとして掲げられ、地球規模の課題に対し、株主や顧客、すべてのステークホルダーと連携して取り組んでいく必要が叫ばれる一方、日本での取り組み状況は先進国の中で遅れが指摘されています。

SDGsとの違い

サステナビリティ経営を正しく理解するためには「SDGs(持続可能な開発目標)」の知識が基礎になります。

SDGsとは、SDGs(Sustainable Development Goals)の略称で、2015年9月の国連総会で加盟国の全会一致で採択された国際目標です。2030年のあるべき姿を描いた17の目標と169のターゲットから構成されています。

貧困、ジェンダー、環境、衛生、サプライチェーンなどについて、政府や企業が取り組むべき具体的な目標や行動指針などが示されています。サステナビリティが「持続可能な発展を目指す」という方向性、SDGsはそのための目標を示したものと区別するとよいでしょう。

SDGsが2030年までの時限があるのに対し、サステナビリティには定められた時間枠がありません。

CSRとの違い

サステナビリティの論議で必ずと言っていいほど登場するのが「CSR」という用語です。CSR(Corporate Social Responsibility)とは「企業の社会的責任」を指し、企業が社会や環境と共存し、持続可能な成長を図るため、その活動の影響について責任をとる企業行動、および企業を取り巻く様々なステークホルダーからの信頼を得るための企業のあり方(経済産業省ホームページより)を指します。

CSRが提唱され始めたのは1990年代です。グローバル経済の拡大により、世界中で環境汚染や貧困、人権などの課題が顕在化し、同時に国内外で大手企業の違法行為、不正行為が次々と明るみになった時期でもあります。CSRは、利益の追求と社会的な責任を同時に果たすこと、端的に言えば企業単独の存続が目標です。これに対して、サステナビリティ経営は、SDGsを受け、企業社会全体の目標として拡大されています。

サステナビリティ経営の必要性

現在サステナビリティ経営が求められる背景には、いくつかの理由が考えられます。ひとつは環境問題の深刻化です。気候変動、海洋汚染、エネルギー問題などは、日常生活に直結する課題として一般消費者にまで危機感が高まっています。課題の解決のために、企業が果たす役割と責任は一層重要とされています。

また、サステナビリティという概念が普及するにつれ、環境負荷や人権に配慮した商品やサービスを提供する企業が選ばれるなど、消費活動にも影響が現れはじめています。国の施策にも発展し、フランスでは2022年1月、世界初の「衣服廃棄禁止令」が施行されました。売れ残った新品の衣類を、企業が焼却や埋め立てによって廃棄することを禁止する内容で、ファッション先進国の取り組みは世界的な注目を集めています。

ほか、企業のサステナビリティは、従業員のモチベーションや求職の際にも影響するというデータもあります。今後、企業が持続的に成長するためにサステナビリティは必須条件となるのではないでしょうか。

サステナビリティ経営のメリット

ここで、サステナビリティ経営を実践した場合のメリットを考えてみましょう。

期待できる効果として

  • 企業イメージが向上する
  • ステークホルダーからの信頼が向上する
  • 事業コストを削減できる
  • 新しいビジネスにつながる場合がある
  • 従業員のエンゲージメントを強化できる
  • 優秀な人材を獲得できる

といったメリットが挙げられます。

企業イメージが向上する

事業を通じて社会課題を解決しようとする企業の姿勢はイメージを向上させ、製品やサービスの信頼性が高まります。ブランディングにも繋がり、結果的に企業の競争力もアップすることにもつながるでしょう。

ステークホルダーからの信頼が向上する

サステナビリティ経営の推進で中長期的な成長を目指す企業には、ステークホルダーから高い信頼が寄せられます。ステークホルダーからの信頼が高い企業は、ESG投資による資金調達が受けやすくなります。ESG投資とは、環境、社会、ガバナンスに配慮している企業へ行う投資のことです。コロナ禍が過ぎた現在も世界の投資額におけるESG投資のシェアは拡大しており、投資家にとって主要な判断基準となりつつあります。

事業コストを削減できる

商品やサービスの製造・供給過程において、エネルギーや廃棄物の量などを見直し改善することで、コスト削減に繋がります。コスト削減が商品やサービスの上代に反映されることで、価格競争力を高めることも可能です。「サステナビリティ経営にはコストがかかる」という考え方は、一面だけを捉えた先入観に過ぎないといえるでしょう。

新しいビジネスにつながる場合がある

再生エネルギーや海洋ゴミのアップサイクル製品など、新しい事業、商品が開発されています。サステナビリティ経営に取り組むことで、新しい市場が生まれ、そこで先発者優位を持つこともできるかもしれません。

従業員のエンゲージメントを強化できる

サステナビリティ経営のメリットとして注目されているのが、従業員エンゲージメントの強化です。従業員エンゲージメントとは、従業員の企業に対する信頼や貢献意欲を指します。自分の職場や業務が単なるお金を稼ぐ手段ではなく、社会貢献に繋がっているという意識を共有できれば、従業員エンゲージメントは飛躍的に高まり、反対に離職率は低下が見込めるでしょう。

優秀な人材を獲得できる

サステナビリティ経営を実践する企業には、志向を同じくする人材、新たな事業に挑戦する気概を持った人が集まりやすくなります。優秀な人材が活躍することで、経営がさらに成長するという好循環が生まれます。

言い換えれば、環境や社会を考慮せず、サステナビリティに消極的という企業は、長期的な成長や持続性の可能性が低いと見られ、投資や融資、就職先として選ばれにくくなっていくといえるのではないでしょうか。

サステナビリティ経営のデメリット

ここで、あえてサステナビリティ経営のデメリットについて考えてみましょう。

多く指摘されるのが

  • 事業コストが増加する場合がある
  • 販売機会を損失することがある

という点です。

事業コストが増加する場合がある

これまでにメリットとして事業コストの削減を挙げましたが、逆にコストが増大してしまう可能性もあります。想定されるのが、ESGを事業に配慮して製造や流通のサプライチェーンを変えた結果、製造原価や物流費がかさんでしまったというケースです。または、業務プロセスを見直した結果、現場の労働時間が増え、人件費がかさんでいく「改悪」パターンもあります。原燃料の高騰や為替など、企業単独では解消できない要因もありますが、自社が持っている経営資源を損ねないよう入念に準備を進める必要があるでしょう。

販売機会を損失することがある

製品のスペックや納入先の条件、規格を変更することによって、販売機会を損失してしまうリスクが指摘されています。また、取引先がサステナビリティについて理解が不十分だと、最悪、取引の縮小や消失に繋がる可能性があります。取引先の消失は痛手ですが、サステナビリティ経営を推進する上で、取引先の見直しを判断しなければならない場面がでてくることがあるかもしれません。

サステナビリティ経営に取り組む手順

それでは、サステナビリティ経営に取り組む手順について紹介しましょう。

  1. 取り組む課題を検討する
  2. 長期ビジョンを策定する
  3. 目標達成に必要な行動を検討する
  4. 実施して振り返りを行う
  5. 取り組み状況を公表する

取り組む課題を検討する

自社の現状を把握し、環境・社会・経済という3つの観点から、自社の事業が社会とどのように関わっているかを把握し、取り組むべき課題を可視化します。実現が難しい目標を掲げてしまわないよう、現状を踏まえた検討が大切となります。

長期ビジョンを策定する

課題が決定したら、解決のため、いつまでに、どのような姿(パーパス)を目指すかという長期ビジョンを明確に定めます。SDGsの達成期限である2030年、カーボンニュートラルの目標年である2050年など、世界的な指標も目安になるでしょう。

目標達成に必要な行動を検討する

長期ビジョンをもとに、実現に向けた具体的な行動を検討します。この場合、具体的な数値や指標などを設定した上で、達成するための手段や行動を明確に決めることが重要となります。

実施して振り返りを行う

通常の経営計画と同様、実施後は振り返りを行い、目標の達成度を把握します。進捗が計画通りでない場合は改善し、達成年はぶらさないようにしましょう。

取り組み状況を公表する

サステナビリティ経営に関わる情報は定期的に公表しましょう。株主総会や顧客向けの媒体などばかりでなく、ホームページやSNSも活用するといいでしょう。取り組みを知ってもらうことで、ステークホルダーからの信頼を高めることができます。ただし発信する情報には透明性、公平性を徹底することが重要です。

サステナビリティ経営に取り組む際のポイント

サステナビリティ経営を成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。これらは、組織全体での意識統一、国際基準の活用、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進などを含みます。

全社で意識を統一する

サステナビリティ経営は長期的な計画に基づき実践されます。そのためにも、社員全員がサステナビリティやSDGsなどを理解した上で目標に向けて働く環境が必要です。職場環境の大きな変化を好まない従業員がいる場合もあるでしょう。そのため、経営者にはトップダウンではなく、全社で意識を統一するための努力が求められます。

GRIスタンダードを活用する

ESG経営について関心がある人は、「GRIスタンダード」という用語を目にすることが多いのではないでしょうか。GRIスタンダードは、ESG情報の開示枠組みの一つで、オランダのアムステルダムに本部を置く非営利団体GRI(Global Reporting Initiative)が提供するサステナビリティ基準です。企業が経済・環境・社会に与える影響を報告し、持続可能な発展への貢献を説明することを目的としているため、企業の透明性と説明責任を果たすのに有効だとして、世界中のサステナビリティ報告(サステナビリティレポート)で利用されています。

DXを推進する

デジタル技術を活用してビジネスモデルや企業文化を変革するのが「デジタルトランスフォーメーション(DX)」です。長期計画で目標を達成するサステナビリティ経営とDXは一見、相反するように見えますが、実際はきわめて緊密な関係にあります。長期ビジョンを計画化し、実行しながら進捗状況を把握し、随時改善を加えていくというプロセスに、デジタル技術は欠かせません。社外へ情報を発信し、ESG投資を促進するためにも、デジタル技術が威力を発揮するでしょう。サステナビリティ経営の推進とDXの推進は車輪の両輪といえるのです。

まとめ

予測不能な事態が、瞬く間に世界各国に影響を及ぼします。リスクをチャンスに変換できる可能性を持つ経営手法としてサステナビリティ経営が一層注目されています。日本でも広がっていくことを期待したいところです。

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