事業構想からの全フェーズを「伴走型」で支援。アナログ領域でも“汗する”DXコンサルとの二人三脚で出版流通の変革を目指す

出版界の課題をDXによる新技術で解決しようと、業界大手3社と丸紅、丸紅フォレストリンクスが共同で設立した「PubteX(パブテックス)」。主要事業の一つはRFIDタグ(ICタグ)で流通を可視化し、持続可能なインフラを構築することである。そのPubteXのRFID事業立ち上げにドルビックスコンサルティングも様々な形で支援を提供している。
今回は、PubteX事業立ち上げの背景や進捗状況、当社の支援内容、将来の展望などをテーマに、代表取締役社長の永井 直彦様と、サステナビリティ&デジタルイノベーション本部 マネージングディレクターの上村 知広が対談した。

出演者

●永井 直彦様(株式会社PubteX代表取締役社長)

1986年丸紅入社。丸紅物流出向、Beijing Wai-Hong Int’l Logistics.総経理、丸紅㈱物流企画営業部部長、丸紅㈱情報・不動産本部長付部長を経て、2022年3月よりPubteX代表取締役社長執行役員。

●上村 知広(サステナビリティ&デジタルイノベーション本部 マネージングディレクター)

大手SIer、総合系コンサルティングファーム、教育関連事業会社を経て2022年に当社参画。中期IT計画の策定、ソリューションブループリント策定から、システム導入、まで幅広い領域のコンサルティングに従事。業務・事業改革プロジェクトと並走しながらのシステム刷新、展開・定着化支援経験を多数有する。長い経験から流通小売業に深い知見を有する。

商社(丸紅)ならではのプロジェクト。
RFIDの技術で出版流通をサステナブルに。

永井 直彦 様

上村/PubteXの創業当時、出版界の大手3社が合同で事業を行うことが話題になりましたね。まずは設立の背景や趣旨をお聞かせください。

永井様/私たちは講談社、小学館、集英社という出版界のトップ3と、丸紅および丸紅フォレストリンクスの5社によるジョイントベンチャーです。

設立は2022年3月ですが、構想そのものは2018年頃に生まれました。丸紅は総合商社の中でも紙の扱いに長け、古くから出版界に紙を供給していたため、出版社と深い信頼関係で結ばれていました。

初めは講談社から丸紅の紙部隊に声が掛かり、そして、丸紅内でITやDX、ロジスティクスを得意とするメンバーも招集されたのですが、私は物流事業を管轄していたためお呼びが掛かり共に出版界の課題解決に挑むことになりました。

さっそく出版社と研究会を開き、多くの課題が取り上げられたのですが、中でも「本の返品率が高い」「書店の経営状況が厳しい」という2点に優先して取り組むことが決まりました。

元々は講談社と丸紅グループの取組だったのですが、この動きを出版界のインフラとするために小学館、集英社にも声を掛けました。講談社、小学館、集英社は普段は厳しい競争相手ですが、流通の課題は競争領域ではなく協調領域と捉え、いずれも二つ返事で本事業への参画が決まりました。それぞれ老舗の業界のリーダー格として、「出版界のサプライチェーンをサステナブルなものにしたい」との思いを感じました。

以上がPubteX設立の背景です。主な事業としては二つあり、まず返本率低減に向けてAIによる発行数と配本数の適正化を進めています。そしてもう一つが、ドルビックスが深く関わるRFIDのビジネスです。

上村/RFIDのタグを本に装着、あるいは挟み込み、入荷・棚卸し等の業務効率化や、売上および在庫情報のリアルタイムな把握などを目指すプロジェクトですね。書店を起点に出版界全体のオペレーションを改革し、書店と出版社共創マーケティングの実現で販売拡大にも貢献できると期待されています。業界団体、業界紙でも大きく取り上げられています。

永井様/都内のある大型書店では常に約100万種類以上の本を扱っています。その上で出版界では毎年およそ7万タイトル、つまり毎日200種類近い新作が生まれています。

人気作は店内に何冊も平積みされますが、その他は棚に1冊ずつ並んでいますよね。言い換えると、常に100万種類以上の製品があり、この様な小売りは他にはありません。一方で、あまりに品種が多く、管理に手間がかかるために、入出庫検品は殆ど時間がなくできず、棚卸も年に1度しかできないというのが実情です。当然ながら理論在庫と実在庫には常に差異が生じています。

上村/ただ、RFIDタグを導入すれば、例えば棚卸しのスピードが30倍から50倍になると見込まれています。出版界に大きなメリットをもたらすと期待できますよね。

永井様/また、今あるバーコードでは「ワンピース 第108巻」といったタイトル(相対単品)までしか情報を得られません。ところがRFIDタグなら、「ワンピース 第108巻の1,021冊目」など1冊1冊の個品のユニークなデータが取れます(完全個品管理)。つまり、「ある本を特定の書店で購入した人にのみサービスを提供する」という様なことも可能になります。

例えば、「A書店で小説を買うと作家との交流イベントに参加できる」「B書店でファッション雑誌を買うと指定のアパレル店で20%割引が適用される」といった具合に、実際の購入者にメリットを出せるようになります。売り上げアップにもにつながると期待され、現在出版社や書店でアイデアを出し合っているところです。

事業計画の立案から現場オペレーションまで。
二人三脚で挑んだ3年間。

上村 知広

上村/我々ドルビックスは2021年にスタートした会社設立以前の構想フェーズから皆様をご支援させていただきました。

永井様/以前より丸紅ではRFID関連のビジネスで実績がありましたのでRFIDが分かる人材はいましたが、デジタルサービスを開発する、かつ、ジョイントベンチャーで出版流通の多岐にわたるステークホルダーを巻き込みながら大きなプロジェクトを推進していく人材は充分にいませんでした。

そこで、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の専門家としてドルビックスに参画してもらいました。

当時、RFIDは世の中に普及しておらず、大手アパレルが導入している程度でした。DXを看板とするドルビックスでもあまり知見のない技術だったと思います。しかし、私たちがパートナーに求めたのはRFIDそのものの知見ではなく、RFID技術やそこから得られるデータをサービスとして提供し、出版流通業界の課題解決に挑みつつ、事業そのものの立ち上げ、収益化を成し遂げるための知見やノウハウでした。

RFIDの専門知識などは当社から提供すれば十分であり、共に伴走いただくパートナーとして期待していました。とはいえ、皆さんも理解力が高く、上村さん、ドルビックスのプロジェクトメンバーも今やRFIDの専門家ですよね。

上村/振り返ると、プロジェクトの最初の難所は、本にRFIDタグの装着方法を出版社と合意するところでした。純粋に製本の技術という観点でなく、読者目線でコンテンツプライバシーや、作家目線で「本」という「作品」にタグが付くことに対する違和感がそれぞれ課題になり大きな議論となるとは、事前に想像できませんでした。

永井様/本当にその通りでした。それでもなんとか23年夏に出版社3社のコミックスにタグを装着して市中に流通させるところまでこぎ着けることができ、私にはまさに「ドルビックスと歩み始めたビジネス」だと感じられました。

上村/本来我々はプロジェクトマネジメントのプロですし、事前に実行計画をかなり練って挑みましたが、なかなか一筋縄ではいかないプロジェクトでした。日々目まぐるしく変わる状況に合わせてアプローチやタスクを臨機応変に変えながらなんとか乗り切りました。

それでも、PubteXとドルビックスのプロジェクトメンバー全員が一丸となって、ひとつひとつ課題をつぶし込みながら、事業立ち上げの重要なマイルストーンを一緒に乗り越えることができました。

本プロジェクトでは事業構想に始まる全てのフェーズで「伴走型」の支援を提供できたと考えています。多種多様なチャレンジが不可欠な案件であり、メンバーも私も5つや6つの職種を凝縮させたような動き方が求められました。

ドルビックスメンバーとしてもコンサルタント冥利に尽きる本当に良い経験をすることができました。

永井様/おっしゃる通り様々な困難がありましたが、それでもここまで事業を続けられたのは、ドルビックスの対応力が高かったからでしょう。その後も、トレーサービリティ・システムの稼働、書店でのパイロット検証の実施と順調に進捗していますし、来年(25年)の商用サービス開始も見えてきました。

PubteX(IOTソリューション事業)の提供サービスと事業立ち上げ状況

  • PubteX(IOTソリューション事業)は、RFIDタグ・デバイス・システムの3つのサービスを提供。
  • 出版社向けのRFIDタグは23年7月から提供開始済み。RFIDデバイス・システムも23年9月から書店でのパイロット検証を進めている(25年1月からの商用サービス開始予定)。

PubteX(IOTソリューション事業)とドルビックス支援の歩み

  • PubteX設立前の事業構成から、デジタルを活用した新規事業の立上げの全フェーズにて「伴走型」で支援

ドルビックスの提供価値:事業構成から運営・改善まで主体者のように支援する能力

”デジタル”サービスの立ち上げの現場は”アナログ”だった

永井様/ところで、ドルビックスコンサルティングはDX(デジタル)のプロですが、RFID技術自体はアナログのため、相当に苦労したのではないでしょうか。

上村/RFIDを使ったデータ取得はいわゆるアナログ―デジタル変換(A/D変換)の領域ですよね。確かに“DX”ではデジタルデータを駆使するところが注目を浴びがちですが、それ以前のデジタルデータを蓄積し使える状態にするところが非常に重要ですし、とても難しいです。

永井様/実際、製本所の製本工程の内部まで入り込んでタグの装着法やアクティベーション*について検討してもらいました。 *タグと本のコードを紐づける作業

ある人気作品のコミックスは毎巻300万部以上が世に出ます。例えば昼夜を問わず一日に20万部を作り続けても約2週間かかる計算です。国内最速レベルの製本機が稼働しているわけで、その環境下でもRFIDタグを正しく装着できることが求められました。すでに決まっている発売日を遅らせてはならないと、準備や調整には相当な時間と労力をかけました。

上村/3カ月くらいかけて数十もの製本工場を回り「タグがきちんと本に収まるか」「製本スピードを落とさないか」「タグが傷まないか」「本を傷めてしまわないか」などをチェックしてから実際の稼働に移りました。出版流通を止めてしまうわけには行けませんから、単なるヒアリングや業務フロー作成だけにとどまらないように、何度も現場に足を運んで注意深く検討を進めました。

永井様/書店も同様でしたね。RFIDの電波はアナログな自然現象で強度や方向を制御するのが難しく、店内の金属に反射し意図しない本を間違って読み取ることもあります。また、販売中の本と返品する本が近くにある場合にどちらのタグを読み取るのかなど、現場でなければ答えが分かりません。

ですので、店舗にも1、2週間ほど滞在し、売り場を見た上で理想的なレイアウトや業務オペレーションを提案してくれましたよね。ドルビックスの皆さんが文字通り、“汗をかいていた”のが印象的です。

永井様/加えて、私たちは業界横断で出版流通に携わる出版社や卸会社、書店に向けてRFIDタグの価値を証明し、その価値を享受してもらわなくてはいけません。そのため、それぞれの立場・事情を理解し、バランスの良いアプローチを考え、丁寧にコミュニケーションする必要がありました。そういう意味でアナログところもしっかり支援いただけたと思います。

サステナ×デジタルで出版流通に変革を。
社会的価値の向上と経済的成功を両立させたい。

永井様/冒頭にお話しした「出版界のサプライチェーンをサステナブルなものにしたい」という想いを実現するためには、今後、ますます出版流通業界でのRFIDタグの普及と利活用の促進が重要になってきます。

紙の出版物に関わる人々は苦境に立たされ、実際に全国の約3割の地方自治体で書店が姿を消してしまいました。なんとか「書店で本を選べる・出会える」という、当たり前の世界を次の世代につなげていかなければなりません。

一方で、PubteXは会社設立3年目を迎え、来年(25年)の商用サービス開始も控え、事業としての投資回収、収益性が求められる時期に来ました。

上村/「社会的価値の向上と経済的成功を両立」が求められる、ということですよね。これはまさに我々が提供したいコンサルティングサービスの考えとも合致しています。

これまでドルビックスはPubteXを筆頭に、デジタル技術と事業アセットを融合した新事業創出や既存事業変革を数多く支援してきました。その知見/実績を結集し、産業横断テーマであるサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)を実践する新部門を設立しました。

ドルビックスの総力を挙げて、これまで以上にレベルアップして、出版流通改革とPubteX事業の成功、ご支援させていただきたいと考えています。

永井様/PubteXの事業パートナーとしてドルビックスに引き続き期待しています。本日はありがとうございました。

上村/引き続きよろしくお願いします。本日はありがとうございました。

関連サービス